終戦記念日を迎えて和解について考える

 「人を殺さないよう、そして殺されないように戦場では逃げ回っていたよ」。小学生の時に、近所のおじいちゃんが戦争について尋ねると、そう言って言葉を濁しました。そのおじいちゃんは終戦近くに南方にいた様子で、もしかしたら、語るのも躊躇われるような経験をしたのだと思いました。
 私の祖父は私が生まれた時にはすでに亡くなっており、かれらが戦場で見てきたことについては聞いたことがないものの、「疎開」「空襲」「シベリア抑留」などが祖父母たちが体験した戦争だといいます。殺された側、殺した側すらも大きな傷を残した戦争。内務省の発表によれば、戦死者は約212万人、空襲による死者は約24万人で、全世界的には数千万人の死傷者数であったと言います。(戦死者、行方不明者の数の合計は諸説あり)

 日本から持ってきたカレンダーには終戦記念日と書かれ、海外にいてもなおこの日戦争後に生まれた世代ながら様々な思いを感じます。終戦記念日と思っていたこの日は、「戦争が終結することをラジオ放送で国民に知らせた日」とされ、東京湾内のアメリカ軍艦ミズーリ号上で日本政府及び軍代表が降伏文書に署名した日、9月2日を終戦日としている日本史の教科書が多いといいます。この日に1963年から毎年、政府主催による「全国戦没者追悼式」が行われ、正午から1分間、黙祷が捧げられています。お隣の韓国では、「光復節」と呼ばれ日本の統治から解放された日として、祝日です。

 この日のメディアの報道をぼんやり見ながら、終戦から68年が経ち、今も諸外国と和解がなされたのか?考えます。
 「和解」とは、壊れた関係を修復すること、そして、根本的な違いとともに非暴力的に生きることを学ぶこと。紛争解決の究極の目的が和解というのは納得のいくものです。しかし、そのレベルに達することは難しく、大体の戦争/紛争はそこまで至らないといいます。和解への道として、過去の全てを捨て去る-社会的記憶喪失(p273)、過去に敬意を払う-真実和解委員会の組織(p274)、過去を現在の法廷にて裁く-裁判(p277)、過去に対する将来の賠償(p278)、儀式的ヒーリング、報復(p279)、と平和学の教科書には挙げられています。

 過去の全てを捨て去る-社会的記憶喪失の例として、カンボジアのクメールルージュについての教科書の記述が10行に満たないという指摘がある。紛争中の分断は家族をも引き裂く根が深いものだったからなのではと言われる。しかし、ここで彼らの和解のプロセスが終わったというわけではないのではないかと思います。そして、これは過去の世界大戦にはあてはめるべきではないと個人的に思いますが、非常に繊細な歴史教科書問題一つとっても、現実のインパクトに比べて社会的記憶喪失ともいえるようなほど記述が少なかったように思い返されます。
 真実和解委員会は、裁判と国家的記憶喪失の中間の第三の道とよび、南アフリカをはじめ各国で実質的な取り組みが行われました。南アフリカの事例は、アパルトヘイト政策の失敗、キリスト教、地元固有の伝統的価値観があり、指導者にも恵まれた、ある種特殊な事例です。人種関係の悪化をもたらしたとも言われていますが、時間をかけて、未来に向けての関係性の構築に努めたところは学ぶべきことが多い事例のように思います。裁判、賠償、儀式的、報復・・・しかし、深層レベルの和解に至るためには、真実、正義、慈悲、とそれらを異なる社会レベルにおいてつないでいくこと、その社会的スペースが必要なのだと考えます。
 
 旦那がフィリピン人なので、フィリピンと日本の戦後の関係を考えます。旦那は考え深く「もし、僕のおばあちゃんが生きていたら、僕らの結婚反対しただろうな」と一度ぽつりと言ったことを思い出します。日本がフィリピンを占領しのちに戦局が悪くなってから、残酷な方法で現地の人たちを殺害したといいます。そうした話を時折聞きます。約70年という月日を持ってしても、いまだに人々の記憶からは消えておりません、そして消えないと思います。遺族の残された、怒り、悲しみ、喪失感は世代を超えていくようにすら思われます。
 また、戦争だからと上官の命に従って民間人を殺害したことを今でも思い出す元日本兵もいるといいます。上記の近所のおじいちゃんが戦場で経験し、それを振り返って、心に残っていまでも忘れられないことがあるのではないかと思いました。

 壊れたものの完全な修復はできないものの、戦争に直接かかわった世代が亡くなってしまう前に、和解に到達することができたらと思いました。日本のNGOで日本の元兵士とフィリピンの遺族たちをインタビューし、両者をつなぐ活動をされていることを知人を通じて学びましたが、これもやはり、深い和解に向けての一歩となる活動になるのではないかと思います。

 
 

 

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