放射線についての学校への“出前講義”が始まるという話を聞いて思ったこと

 全国の学校で、放射線について学べる出前授業が始まるという話を耳にはさみました。文部科学省のウェブサイトで、その事業への説明をみると、目的は、「学校教育の場などにおける放射線等に関する教育について、各地域等が行う知識の習得、思考力・判断力等の育成のための取組への支援を実施する。」とありました。具体的には、教育職員向けセミナーの開催、出前授業等の開催、課題研究活動の支援、高校・高等専門学校を対象に、放射線等に関する知識の習得・活用・探究など課題研究、活動の支援<学習用機器(簡易放射線測定器)の貸出がされ、そこに426百万円(平成24年度予算案)が費やされるようです。若い世代への投資として心穏やかに歓迎したいところですが、実際に内容はどういうものなのでしょうか。

 「放射線等に関する副読本」を思い出します。福島の事故の後に再度作りなおされたこの副読本、小学生、中学生、高校生向けと分けて作られていますが、高校生向けの副読本の内容を観てみました。
まずは目次から。
◆放射線の世界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
◆原子と原子核・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
◆放射線の基礎知識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5-10
◆放射線による影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11-14
◆放射線の利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15-16
◆放射線の管理・防護・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17-18
◆身の回りの放射線の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・19-20
◆放射線についての参考Webサイト ・・・・・・・・・・・21

 目次から、放射線による影響、また管理や防護について書かれていることに少々期待をもって読みはじめましたが裏切られました。影響について書かれているページでは、特に今回の事故によって大量に放出された放射性物質によって引き起こされるであろう癌をはじめとする疾病が、相対化されています。
「喫煙、食事・食習慣、ウイルス、大気汚染などについて注意することが大事ですが、これらと同様に原因の一つと考えられる放射線についても受ける量をできるだけ少なくすることが大切です。」 p14 
国が作る教材で、チェルノブイリのことに触れるのが難しいのであれば、国内の東海村の臨界事故なども含めてその影響について具体的事例を提供すべきだと思います。

「て環境中の放射線量を監視し、事業者や自治体のホームページなどで情報が公開されています。」p17
モニタリングのシステムがあると言っていますが、実際福島の避難時にこのモニタリングがどれだけ役に立ったのか?それについて言及はされていません。緊急避難時、こうした情報をどう利用すべきか、どう理解すべきかがなく、安全に気をつけていますよ!という宣伝にすぎない編集。

 その他にも一読して思ったことはいつくかありますが、全体的には
①そもそも、何が言いたいのか、曖昧すぎて分からない。
浅く、広く、放射線について学べるが、曖昧な内容で、結局原子力推進という結論に持っていきたいという印象をうけました。(私だけ?)

②なぜ子どもたちが放射能について今学ぶのか?の問題定義がない。
「はじめに」のところで、副読本の必要性が書かれていますが、一般的すぎます。そして実際、子どもたちが知りたいということに合致しているのかわかりませんでした。高校までの教育は基礎知識のある種の詰め込みであることは同意するものの、こうした学習は副読本を鵜呑みにさせるのではなく、生徒たちに考えさせるためにあるべきと、個人的には思います。そう思うと、子どもたちがなぜ学ぶかという問いがなく、その問いに答えられないのは問題外なのでは・・・

③福島の原発について一切書かれていない
断定を避けるためなのだろうけど、事故以降の発行にも関わらず、不思議なくらい福島の事故のことに触れません。そして、チェルノブイリや東海村についての記述も皆無です。

 副読本の裏テーマは恐らく、「それでも私たちは原子力発電所にYESと言うか?」ということだと思います。国が作るからと、一方に偏るのではなく、読み手の判断力を育む教本を同じ税金を使うのであれば作って頂きたい!今回の出前講習もそうした視点から生徒たちが批判的に考えるようなコンテンツが提供されることを願うばかりです。
 更に言うと教育でも、国のエネルギー問題でも、原子力の問題だからとその専門家のみを用いず、環境科学・社会学・宗教・・・文理系問わず色んな方面からの貢献が必要な問題であると感じました。


 







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