[ドキュメンタリー] 美を追及しつづけた女の執念―「イメルダ」を観て (2)


ファーストレディとして―マルコス大統領時代


イメルダ夫人とマルコス大統領
cited from http://www.getrealphilippines.com/blog/2014/07/are-ateneans-making-too-much-of-a-big-deal-over-the-imelda-marcos-photos/
マルコスが大統領になった時、夫人は「ファーストレディとしての私の役割とは何?」と尋ねたそうです。大統領は国家の父としての強固な土台を築くので、それを家のようにしてほしいと答えたそうです。

夫人は、「何をもって”家”といえるのか。それは、”愛”。何が愛を実態の伴うものと出来るのか、”美、文化”であると思いました。」と自らの考えを深め、フィリピンのアイデンティティが危機的状況であると考え、フィリピン人の精神の象徴として文化センターを建てることがよいと考えました。これが今も、国際会議や文化的公演が行われるフィリピン文化センター(通称CCP)が出来た理由(背後の哲学)であると説明します。

フィリピン文化センター(通称CCP)
 マニラ湾沿いにある、目を引く建物、フィリピン文化センター(通称CCP)
http://hotelyoyaku.worldhotelsreservation.com/wp-content/uploads/2016/01/philippines-manila-0511.jpg


彼らなりのフィクション

マルコス大統領時代の政治は、一言で表現するなら「幻想」を作り挙げることに成功したと言い表すことが出来るのではないでしょうか。彼の大衆見世物劇的政治、救世主的救済観(自らがフィリピンの救い主)であるという妄想のもと、大衆を欺き続け、大衆もその劇の一員として演じ続け、保持された政治でありました。演じることを拒絶した人は強制的に舞台から消えていきます。

大衆見世物劇的政治に花を添えたイメルダ。マルコスと周遊演説に行った際には夫婦でデュエットを唄い、積極的に政治に参加していき、政治ゲームを熟知して行きます。

故マルコス大統領の個人の支配による権力政治を展開し、イメルダ夫人を国会議員、マニラ市長とし彼女に国家予算の15パーセントの権限を握らせ、長女のアイミーを国会議員、ボンボンマルコスを地元イロコスの知事にし、国民からかすめ取った金で、軍関係者を買収し、マルコスは権力の永続化のための布石を打ちました。

貧民の味方?!

私はスターであり、同時に奴隷なの
    byイメルダ・マルコス


イメルダ夫人曰く、「私はスターとして、貧しい人のために輝き続け、また奴隷のように他の人たちが輝き続けるお手伝いをする役割があるの」だとか。

イメルダ夫人は自ら、貧しいものの代表のように思っていました。貧しい層の出身であるが故、貧しい人間は、彼女に自分を重ねて、彼女が経験したことを自分が経験したかのように感じるのだとか。なので、彼女がよい経験をすると一般、とくに貧しい人もよい気分になると思っていたようです。

貧しいものの味方のように振る舞い、トンドの地区には安価に住める住宅を作りました。実際、地域をおとずれては、地域住民と交流をもつ様子がドキュメンタリーの一場面にもあります。

しかし、高価な海外の絵画を買い付け、数えきれないほどのドレス、靴、のコレクション、贅を尽くしたその生活はまさにイメルディフィック(Imerdific:派手に浪費する、下劣なぜいたくのの意味)。また、上記のようにマルコス大統領には隠し子がいます。一方イメルダ夫人もハリウッド俳優との噂があり、スターとして輝き続けたかったことは明らかです。

劇場の終焉―アメリカの裏切り?!

これまでアメリカは安全保障の側面から、マルコスの政治、事前に察知していた戒厳令を無視し、マルコス劇場を温存させる方向で動いてきました。
そのため、ニノイ上院議員暗殺の後に高まった民主化の波の中実施された選挙で、コラソン・アキノ氏が勝利し、アメリカが公式的に新しい大統領を認めた際は、「アメリカに裏切られた!」と感じたようです。その後一家はハワイに亡命、失意の中マルコス大統領は亡命先で亡くなりました。

大統領の居住地であり政治の中心であったマラカニアン宮殿では、15着のミンクのコート、1000足を超える靴、ガウンなどが残され、夫人の浪費はその後メディアによって明らかにされ、非難を浴びました。後彼女は「貧しい人たちの希望の星になる義務があったのよ!」と弁明します。

帰国後

1991年に帰国を許されますが、脱税と収賄で逮捕された後、保釈金を支払い後釈放されます。その後は被選挙権を永久はく奪されますが、上訴し、勝訴の上、国会議員として立候補、当選しました。現在も85歳の高齢ながら矍鑠として、国会議員をつとめ、息子娘共に精力的に選挙活動を行っています。そして、今もかなりの数の人権侵害等の訴訟を抱えています。

美は完成したのか?

外見を着飾る美、また彼女独特の美の哲学の追求は今も続いているようです。実際、ドキュメンタリーでも自らの美の哲学を披露し、時には饒舌に語っています。イエズス会の神父が彼女と対話した際、4時間のうち一度も口を挟むことを許されぬほど、彼女はひたすら語ったそうです。

ドキュメンタリーでの夫人の語りはまるでおとぎ話、彼女の語る生活や政治劇にリアリティは全く感じられません。政治的駆け引きを知り、そしてしたたかさはもっているものの、彼女はまだ幻想の世界、「私がかわいそうなフィリピン国民を救ってあげるヒロイン」と信じ切っていると感じられます。キリストの受難に自らを重ねているのでしょうか。彼女の目指した美、その追求は、視聴者にとっては喜劇のようにも見られ、鑑賞後は皮肉な笑いがこみあげてきます。

ドキュメンタリーは夫人の語りと、識者、友人たちの証言、そして貴重な映像を交え進んでいきます。彼女の独特の人生観の講義!、ファーストレディとしての華やかな外交、シリアのカダフィ大佐との会談、贅を尽くした生活の様子が含まれており、エンターテイメント、そして歴史資料として見ても興味深いです。

9月4日はマザーテレサが列聖される日。イメルダ夫人は別の意味でフィリピンの国の「マザー」になろうとしていました。その試みは失敗に終わりましたが・・・

是非ご覧あれ。
ドキュメンタリーは英語なため、ご興味を持った方は、イメルダ婦人に関する日本語で出版された本もおすすめです。

実録イメルダ・マルコス―フィリピン大統領夫人の知られざる過去
 



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