[北アイルランド] 国際平和博物館会議:ひめゆり平和博物館学芸課係長 Aさん x 歴史家Eさんの対話

パネル展示の場でのこと。展示場を訪問中のオランダの歴史家エリック・ソマースさんとひめゆり平和祈念資料館(以下”ひめゆり”で表記)の学芸課係長Aさんとの対話に居合わせることができました。とても興味深い対話で勉強になりました。

ひめゆり平和祈念博物館の代表団とエリックさん



エリックさんは、歴史家でホロコーストの研究をしています。そして、ひめゆりの学芸員のAさんは、ひめゆりの学徒動員の生存者の経験を自ら聞き(歴史的資料の収集)、そして訪問者(修学旅行生や一般の博物館の訪問者)に伝える、語り部でもあります。「学者x実務家」の対話。

エリックさんは、沖縄に訪問したことがあります。(著者は日本人なのに、沖縄に行ったことが一度もありません!)彼と沖縄のつながりは、国際平和博物館会議へ参加した1998年。滞在時にはツアーも行ったようで、沖縄の滞在を楽しんだそうです。

Aさん:日本では生存者のみが真実を伝え得るという考え方が広く受け入れられていると聞きます。すべての人は永遠に生きることはできず、生存者の方しかりです。ですので、次の世代の語り部たちがおり、生存者の経験を語り伝えています。これは、エリックさんの研究されているホロコーストでも同じ状況であると認識していますが、そのことについてどう考えますか。

エリックさん(後Eさんと記述):(エリックさんの祖国)オランダでは、近年過去の歴史への関心が高まりつつあります。それは、倫理的な要請という意味合いも含めてです。とりわけ、生存者(暴力を体験した人)の子孫、2世や3世たちにとっての意味合いは大きく、歴史とのかかわりを持つことは彼らのアイデンティティに深くかかわっています。

生存者がこの世を去ってしまっても、博物館の意味合いは時を経つに従い非常に重要となります。博物館は、訪問者の想像(する史実)の文脈を理解する大きな助けとなると思います。

Eさん:「生存者のみが真実を伝えるという」声があることはよく理解できます。ただ、そこのみに焦点をあてるのではなく、博物館側も工夫すべきことがあると思います。持論ですが、多くの博物館の展示はとても単調で、あまり魅力的とは言えません。次世代に伝えたいのであれば、若者にとって魅力ある作り方がどうであるか考えるべきでしょう。

それを考えるために、私からのアドバイスは一度、自分の博物館から一歩外に出てみること(客観的になること)。その上で①核となるメッセージは何か②#1を効果的に伝える方法は何か③訪問者に対して、訪問後何を思い出してほしいか。を問うことです。

先ほど述べたように、展示される多くの情報が果たす役割というのは実は小さく、博物館として重要なことは、訪問者を刺激して気づきを与えること、そして訪問者に過去に何が起こったのか、それらについて興味と関心を向けさせることだと思います。

発表中のひめゆり平和博物館学芸課係長 Aさん
キリッとかっこいいです。

ここで、でしゃばり始める著者・・・

著者:アジアを旅行していると、第二次世界大戦中の日本軍進駐、占領下で苦しんだ記憶を持つ人にとても感情的な言葉をぶつけられることがあります。そして、時にそれらの苦しみを強い感情とともにぶつけてくる人は、戦争経験者ではなく、2世であることに気付かされます。先ほど、エリックさんは、2世・3世の方の戦争体験の受け継ぎが、人格形成に果たす役割が非常に大きいことを話しておられましたが、それらの苦しい、そして相手(かつての敵国、圧政者の国)への強い負の思いも受け継がれ、継承されていくのでしょうか。

Eさん: それは、過去に起こったことに対してどのように対処していくかという問題であると私は理解しています。対処には、十分な学術的な精査、そして感情的な問題への対処が必要です。今の問題を難しくしていることは、信頼できる情報が欠如していること。批判的な目を持つことで、オープンに話ができ、それが真の和解につながると思います。
客観的になることで、巷にあふれる(ある種の負の)情報は、事実が明らかになることによって、ある程度制限されていくでしょう。

著者:エリック先生の講義っていう感じですね♪ありがとうございました。

もっと質問したそうな我々(特に私)から少しづつ距離を置きながら、会場を去って行った(笑)エリック先生でしたが、Aさんからの証言からも現場で起こっていること、人々の声、挑戦や業界全体が抱える悩みなどを知ることができました。お二人の会話とても勉強になりました。

ベルファスト:平和の名のもとの分断ー平和の壁(1)
ベルファスト:平和の壁は平和をもたらしたか?ー平和の壁(2)

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北アイルランドの紛争を知るために(2)不信、アイデンティティ、ナショナリズム
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