フィリピンで「死刑」再導入か?(1)― On‐Offのフィリピンの死刑制度

ドゥテルテ大統領の選挙公約の一つは「死刑」の再導入。昨日3月7日、下院は下院法案4727を審議・そして決議の結果賛成多数で可決。上院に送られ、修正提案や決議が行われるところです。これによって、大統領が望む死刑制度復活へ大きな一歩を踏み出しました。

On‐Offのフィリピンの死刑制度

フィリピンでは、長く死刑は存在し、古くはスペイン統治時代から実施されており、英雄ホセ・リザールもスペインの植民地政府によって、銃殺刑に処せられました。


サンチャゴ要塞 リザール博物館の絵画
マニラ、イントラムロス内フォート・サンチャゴのリザール博物館の中の絵画

マルコス大統領時代には、麻薬王リム・セン(Lim Seng)の銃殺刑をテレビ中継の中実施。多くの国民が極刑の実施を目の当たりにしました。マルコス大統領後のアキノ政権では、一部の犯罪を除いて、死刑を禁止し、実質の死刑廃止となりました。




ところが、その後のラモス政権時、相次ぐクーデター未遂事件により、政権の安定を考えて、死刑を再導入。第14代大統領グロリア・マカパガル・アロヨの時代に死刑を廃止する共和国法No.9346によって廃止、15代のアキノ大統領も踏襲し、今に至ります。

下院法案4727

この法案は、特に麻薬関連の犯罪についての極刑について焦点を当てています。それでも特定の犯罪についての死刑判決は、裁判官に最終的にゆだねられます。

危険薬物の輸入、危険薬物の販売、輸入、取引、配分、配達、などの活動や隠れ家等の維持、薬物の製造等については、終身刑あるいは死刑。執行方法は、絞首刑、銃殺刑、薬物。なお18歳以下、70歳以上は刑の対象とはならなりません。ただ、刑事罰の対象年齢を15歳から9歳に下げることを検討しており、人権団体が猛反対しております。

麻薬戦争に連動しているためこの法案は麻薬関連の犯罪について焦点をあてておりますが、レイプやその他重犯罪に対する適用も検討しております。

この法案について217名の議員が賛成、54名が反対、1名が欠席。

死刑復活の懸念


一説では、日本は死刑を容認する声が半数を超えるといいます。「凶悪な犯罪は死をもって償われるべき」、「被害者遺族を考えて」等の声は大きく死刑容認の大きな根拠となっています。しかし同時に「冤罪である場合は取り返しがつかない」、「死刑の犯罪抑止効果については疑問」だという反対意見も少数ながら存在します。

日本で議論されるポイントは、思想・信条、遺族感情、犯罪抑止力、冤罪の可能性、法律的技術論(憲法と照らし合わせての違憲性)、国際的な潮流等と思います。フィリピンの場合もその点は変わりません。

ただ、フィリピンという土地柄、冤罪の可能性について憂慮すべきは、貧困層に圧倒的に不利になること。これは既に婚姻を無効にする手続きでも明らかにされています。フィリピンでは離婚がありません。しかし、婚姻に対する無効手続きを行うことは可能です。無効手続きは、弁護士を雇い年月と費用かけて行います。ですので、貧困層はただ無効手続きをせぬままの「別居」となります。この間に異性と交際すると不倫として相手から訴えられる可能性もあります。

また、海外出稼ぎ労働者(OFW)が海外で極刑を言い渡された際、フィリピン政府はこれまで相手政府と根気強く交渉してきましたが、そのフィリピンが死刑を復活させることでそのような交渉は望めなくなり、フィリピン国民が国外で死刑宣告を受け、刑が実施される件数が増える可能性も指摘されています。









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